平安時代

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建築

寝殿造り:平安貴族の邸宅

寝殿造りは、平安時代(794年から1185年)に貴族の住まいとして完成した建築様式です。貴族の社会での文化や価値観を映し出すものとして、単なる住まいの形を超えた重要な意味を持っていました。 寝殿造りの一番の特徴は、中心となる寝殿から左右対称に建物が配置され、渡殿と呼ばれる廊下で繋がっている点です。寝殿は、貴族の日常生活の中心となる場所で、家族での食事や休息、客との面会など、様々な用途で使われました。この左右対称の配置は、当時の貴族が大切にしていた秩序や均衡を表していると考えられます。さらに、建物の配置や構造には、中国から伝わった陰陽五行説の影響も見られます。 寝殿の南側には、広々とした庭園が作られました。池や築山、橋などが巧みに配置され、自然の景色を住まいの中に取り込む工夫が凝らされていました。この庭園は、貴族たちが自然を愛で、季節の移り変わりを楽しむための場であり、また、客人をもてなす宴の場としても利用されました。池に舟を浮かべて詩歌を詠むなど、優雅な文化が花開いたのも、この庭園という空間があってこそです。寝殿造りは、貴族の暮らしぶりや美意識を形にしたものであり、日本の建築の歴史において欠かせない大切な遺産と言えるでしょう。
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塗籠:昔の知恵が現代に生きる

塗籠(ぬりごめ)とは、土を厚く塗り固めて壁とした小さな部屋のことです。平安時代の貴族の屋敷でよく見られ、現代の住宅で言うところの押入れや物置、あるいは収納室のような場所に当たります。主に寝室として使われたり、着物や調度品といった大切な物を保管しておく場所として利用されていました。 塗籠の壁は、土を何層にも塗り重ねて作られています。この厚い土壁こそが、塗籠の大きな特徴であり、様々な利点をもたらしていました。まず挙げられるのは、優れた断熱性です。外の気温の変化が内部に伝わりにくく、夏は涼しく、冬は暖かい空間を保つことができたと考えられます。これは、温度変化に弱い着物や調度品を保管する上で非常に重要でした。また、湿度を一定に保つ効果もあったとされています。湿気が多い日本の気候では、カビや虫の発生が大きな問題でした。塗籠の厚い土壁は、こうした湿気を防ぎ、大切な物を守る役割を果たしていたのです。 さらに、塗籠には防火効果もあったと推測されています。木造建築が主流であった当時、火災は人々の生活を脅かす大きな災害でした。土でできた塗籠は、火の延焼を防ぎ、家財を守るための最後の砦として機能していたと考えられます。このように、塗籠は当時の貴族にとって、なくてはならない、生活の知恵が凝縮された空間だったと言えるでしょう。現代の住宅においても、収納スペースの大切さは変わりません。塗籠は、収納の原点とも言えるかもしれません。