あて材

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建築

あて材:木材の性質と利用

あて材とは、木が傾斜地などで育つ際に、幹の中心である樹心が偏り、独特の性質を持つようになった木材のことです。樹木の成長は、重力に逆らって垂直に伸びようとする力と、光を求めて太陽の方向へ伸びようとする力によって制御されています。傾斜地のような特殊な環境では、これらの力が複雑に作用し、樹木はバランスを保つために幹の片側に偏って細胞を成長させます。これが、あて材と呼ばれる特殊な木材組織の形成につながります。 あて材は、通常のまっすぐに育った木材と比べて、内部の繊維構造や密度に違いが生じます。具体的には、樹心が偏っている側の木材組織は圧縮され、密度が高く硬くなります。反対に、引っ張られる側の木材組織は密度が低く、柔らかくなります。この密度の違いが、あて材特有の性質を生み出します。例えば、あて材は乾燥しにくく、木材内部の水分が均一にならないため、乾燥中に割れや狂いが生じやすい傾向があります。また、収縮や膨張の度合いも大きく、寸法変化が予測しにくいため、家具製作のような精密さが求められる用途には適していません。 しかし、あて材の硬さや強度といった特性を活かせる場面もあります。例えば、曲がりにくい性質から、かつては農具の柄や船の櫂などに利用されていました。また、独特の色みや模様を持つことから、装飾的な目的で利用されることもあります。このように、あて材は必ずしも欠陥材ではなく、その特性を理解した上で適切に利用することで、様々な場面で役立てることができます。木材を選ぶ際には、樹種や生育環境だけでなく、あて材の有無にも注意を払い、用途に合った木材を選ぶことが大切です。