日本庭園

記事数:(2)

家のまわり

癒しの空間、坪庭の魅力

坪庭とは、日本の伝統的な家屋に見られる小さな庭のことです。 神社仏閣や武家屋敷といった格式高い建物で発展した庭園様式を、一般家庭にも取り入れたいという願いから生まれました。「坪」という字は面積の単位を指すのではなく、建物に囲まれた空間という意味で使われています。つまり、家屋の一部を囲むように作られた小さな庭のことを坪庭と呼びます。 坪庭は限られた空間に自然の景色を凝縮し、四季の変化を楽しめるように工夫されています。 庭石や灯籠、樹木や草花などを配置し、小さな宇宙を創り出します。苔むした石や、静かに水をたたえた手水鉢は、静寂さと侘び寂びの世界観を演出します。紅葉する木々や、雪景色に映える常緑樹など、季節の移ろいを感じさせる植物を選ぶことで、一年を通して庭の表情が変わります。 坪庭は単なる飾りではなく、住まいの環境を良くする役割も担っています。 例えば、家屋の中心に坪庭を設けることで、光や風を家の中へと導き、明るく風通しの良い住空間を作ることができます。特に、密集した街中で日当たりや風通しが悪い家屋では、坪庭が重要な役割を果たしました。また、坪庭の緑は心に安らぎを与え、日々の暮らしに潤いをもたらします。都会の喧騒を忘れ、自然と触れ合うことで、心身ともにリラックスすることができます。 現代の住宅でも、坪庭は日本の伝統的な美意識を表現する手段として、また、住まいの快適性を高める工夫として、改めて注目されています。 限られた空間でも自然を感じ、安らぎを得られる坪庭は、現代の暮らしにも豊かさを添えてくれるでしょう。
家のまわり

心洗われる庭の演出:つくばい

茶庭の中心には、静寂と清らかさを象徴するつくばいがあります。茶室に入る前に、客人はこのつくばいで手と口を清めます。これは、ただ汚れを落とすためだけのものではありません。心の塵を洗い流し、茶室という特別な空間に相応しい心持ちで入るための精神的な準備を意味しています。 つくばいは、自然の趣を大切にした、様々な要素で構成されています。まず、水を受けるための蹲(つくばい)石。これは、自然石の風合いを生かしたもので、一つとして同じ形のものはありません。その上に置かれた前石は、客人がつくばいに近づきやすいように足場としての役割を果たします。湯桶を置くための台石である手燭石は、前石の横に据えられ、全体のバランスを整えています。また、つくばいの周りには飛び石が配置され、客人はこの飛び石を伝ってつくばいに近づきます。そして、背景には控えめな植栽が施され、静かで落ち着いた雰囲気を作り出します。 つくばいに欠かせないのが、控えめに流れる水の音です。水は筧(かけひ)から流れ落ち、蹲石に溜まり、静かにあふれ出ます。この水のせせらぎは、茶庭全体の静寂を際立たせ、訪れる人の心を落ち着かせます。また、水は常に流れていることから、常に変化し続ける自然を象徴しています。 このように、つくばいは、単なる水場ではなく、茶道の精神を体現する重要な要素となっています。その静寂と清らかさは、訪れる人に心の落ち着きを与え、茶室に入るための心構えを促し、茶の湯の世界へと誘うのです。