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建築

潜り戸:歴史と現代におけるその役割

潜り戸(くぐりど)とは、かがんで頭を下げなければ通れないほど低い小さな戸のことです。普通の戸よりも明らかに背が低く、幅も狭いので、一度に通れるのは一人だけです。その名の通り、まさに潜るようにして通らなければなりません。 潜り戸を設ける意味合いは様々ですが、「謙虚な気持ちになる」という点が大きな理由の一つです。かがんで頭を下げる動作には、自然と心を落ち着かせ、慎ましい気持ちになる効果があります。古くから日本人は、この心理的な効果を重んじ、住まいづくりにも潜り戸を取り入れてきました。特に茶室などでは、客人をもてなす前に、まず潜り戸を通らせることで、客人の心を整え、茶室という特別な空間への意識を高める工夫が凝らされています。 また、建物の美観を高めるという目的で潜り戸が用いられることもあります。例えば、日本庭園では、塀に設けられた潜り戸が、周囲の景色との調和を保ちつつ、奥行きを感じさせる効果を生み出します。さらに、潜り戸は限られた空間を有効活用する上でも役立ちます。天井の低い場所や狭い場所に設けることで、空間を無駄なく使い、機能性を高めることができます。 現代の住宅では、生活様式の変化に伴い、潜り戸を見る機会は少なくなりました。しかし、寺院や神社、歴史的な建造物、そして一部の伝統的な日本家屋では、今もなお潜り戸が大切に保存され、使われています。潜り戸は単なる出入り口ではなく、日本の伝統的な美意識や精神性を今に伝える、貴重な存在と言えるでしょう。